日本を取り囲む美しい海。今この海に大きな危機が迫っています。それは、世界中で問題になっている海洋プラスチックごみ。
更に新たな危機として注目されているのが海洋酸性化問題。二酸化炭素による水質変化で生き物に悪影響が出ています。
そして海底から海藻が消えてしまう磯焼け。その解決方法の一つとして考えられたのは、なんともユニークな方法でした。
大好きな海の問題を知るのは、悲しくてつらいことだけど、科学的に調べることで、正確な情報を得られて、解決策の発見にも繋がっていきます。今回の「みんなのあおいろスペシャル」では、こういった海の問題を科学的視点で考えてみました!
漁港でタモ網を持つ金髪の男性といえば、もちろん岸壁幼魚採家の鈴木香里武さん。早速何かを発見したようです。
捕まえたのはマツダイの幼魚。「ボロボロ感がいい具合に枯葉ですよね」と香里武さん。成長すると80センチを超える大型魚ですが、幼魚のときは枯葉に擬態して身を守っているんです。
本日、香里武さんがいるのは東京湾の一番奥にある船橋漁港。こういった都会の漁港にも幼魚達はたくさんいるのだそう。
そんな香里武さんのもとに1人の少女が。彼女は日本財団が手がける海と日本プロジェクトの海のキッズサポーター三輪風乃衣さん。水族館のサンゴ飼育など、様々なイベントに参加しながら、海のことを学んでいます。
まずは香里武さんから幼魚の採取方法を学びます。しかし、幼魚よりも気になってしまうものが…。「やっぱりごみ多いですね」と、風乃衣さん。「風に乗って流れ藻が来る時、一緒にごみも沢山溜まってくるんだよね。漁港はごみ問題が身近に分かるんですよ。」と、香里武さん。そこで幼魚より先に浮いているごみを採取することにしました。
まず取れたのはペットボトル。「プラごみが沢山浮かんでるけれど、海洋プラスチックの問題って、海面だけじゃないって知ってますか?」と、香里武さん。
海洋プラスチック問題を学ぶため、船橋漁港のすぐ近くにある干潟三番瀬へ。干潟は生命のゆりかごと呼ばれるほど多種多様な生き物が暮らしている場所。そんな干潟にも海洋プラスチックの問題があるというのです。
干潟の砂をすくってふるいにかけてみると…。砂の中からマイクロプラスチックが出てきました。海に流れ出たプラスチックごみは、日光によってもろくなり、波や風、岩に打ち付けられることで、細かくなってしまうんです。
細かくなると拾うのがとても難しく、気付くこと自体も難しくなります。「プラスチックが小さくなる前に何とかしなきゃいけないですよね。」と、香里武さん。
漁港と干潟で海洋ごみ問題を自分の目で確認した風乃衣さん。更に詳しく勉強するために、ある場所へ向いました。
と、その前に、近年注目されている新たな海洋問題について学んでいきましょう。現在、最も大きな環境問題の一つと言われているのが地球温暖化です。化石燃料を燃やすことで発生する温室効果ガスCO2の増加によって地球の気温がどんどん高くなってしまうという現象で、このCO2は海にも深刻な問題を与えているという研究結果が発表されました。それは一体どういう問題なのでしょうか?
長年海の研究をされている里海づくり研究会議の田中さんに教えてもらいました。「大気中の二酸化炭素濃度が増えますと、それに応じて海水中に溶け込む二酸化炭素濃度も増えます。海の水は元々弱アルカリ性ですが、それが酸性側にどんどん傾いてしまうのです。」と、田中さん。
酸性化をわかりやすくする実験もしてくれました。用意したのは水道水とBTB溶液(pH測定用指示薬)。
水道水にBTB溶液を入れると緑色になりました。これは中性を表しています。
液体には水素イオンが含まれていて、その量はpHという数値で表されます。pHが7のものを中性。中性より高いものをアルカリ性、低いものを酸性と呼びます。。
日本の水道水は多くの場所で中性です。そこにクエン酸というレモン等に含まれる酸性の成分を加えると、水道水は酸性になり黄色になりました。三つ目のビーカーにはお菓子作りやお掃除に使う重曹を入れてみます。すると今度はアルカリ性の青色に変わりました。黄色が酸性。緑色が中性。青色がアルカリ性です。
では、目の前の海で組んできた海水は何性でしょうか?青色になったのでアルカリ性です。そこにCO2を入れてみると…黄色に変化しました。これが二酸化炭素が増えると海水が酸性になる仕組みなのです。
では酸性になると、どのような影響があるのでしょうか。田中さんが見せてくれたのは生まれたばっかりの牡蠣の赤ちゃん。酸性化の影響を受けると、殻が溶けたり、死んでしまうそう。すでにアメリカ西海岸、ワシントン州、オレゴン州の海では、2005年海洋酸性化によって牡蠣の幼生が大量に死んでしまいました。
幸い日本ではまだ被害報告されていませんが、被害が出てからでは手遅れ。田中さんの地元岡山では、漁師さんたちと協力して定期的な水質調査を行うなど活動を続けています。
では、どうすれば海洋酸性化を防ぐことができるのでしょうか?それはブルーカーボン。植物は二酸化炭素を吸収して光合成をします。海の中では、アマモという海草や、昆布わかめ等の海藻類の作用により、大気中から海中へ吸収された二酸化炭素を吸収し、海底に有機炭素として貯留します。この炭素のことを「ブルーカーボン」と呼び、現在減少しつつあるのです。海藻をしっかり再生回復をさせ、二酸化炭素を吸い取ってもらうよう努力する必要があります。
海藻が増えればCO2の吸収だけではなく、隠れ家が増えて生態系が豊かになり、いろいろなメリットがありそう。綺麗な海を守る方法を科学で考えたらまだまだ出てきそうですね。
再び話は戻って、干潟でマイクロプラスチックを発見した香里武さんと風乃衣さん。更に詳しい学習をするために海洋研究の最高峰、東京大学の大気海洋研究所に向かいました。海洋ごみについて教えてくださるのは東京大学の道田教授。海洋問題の専門家で、ユネスコの会議の副議長まで務めた日本を代表する科学者です。
早速、道田教授にお願いして、干潟で取ってきたマイクロプラスチックの分析をさせてもらいました。お借りしたのは赤外線を当ててプラスチックの種類を判別する装置。装置に乗せ、赤外線を当てるとパソコンにグラフが表示されました。このグラフの形によってプラスチックの種類が分析できます。
干潟のマイクロプラスチックはポリプロピレンと分析されました。ポリプロピレンは、調理器具やストローに使われている素材。尚、ビニール袋に使われているのは、ポリエチレン、ペットボトルはポリエチレン。プラスチックといっても様々な種類があるんです。「おそらく場所によって、多いプラスチックの種類が異なると思うので、そういったことを現在調査中です。」と、道田教授。種類を把握することで、予防策の判断にも繋がりますね。
次に道田教授が見せてくれたのは、太平洋の上を飛んでる鳥の胃の中に入っていたというマイクロプラスチック。よく見せてもらうと、少し大きなビニール破片が混じっており、日本語の文字が書かれていました。これは日本が関係するごみであるということ。悲しい事実です。海鳥は海面付近に浮いてるエビの仲間等を食べることが多いので、こういったごみを一緒に食べてしまうと考えられています。
これだけ見ても大問題ですが、マイクロプラスチックはさらなる危険もはらんでいます。それは、目に見えないサイズのマイクロプラスチック問題。顕微鏡が入っている機械で映し出された映像には、0.23ミリぐらいの大きさのプラスチックが。こんなに小さいと見た目では分かりません。
「魚はもちろん動物や人間も、目に見えないようなサイズのプラスチックを食べてしまうと、胃の中を抜けていくだけでなく、腸に吸収されてしまう可能性があります。そうすると、もう少し違った意味の危険リスクがあるかもしれないのです。」と道田教授。
「海に恩恵があるからこそ、私達の手で汚すのはよくないですよね…」と、風乃衣さん。プラスチックのない生活は考えられないですが、プラスチックでなくてよいところはプラスチックを極力やめるとか、使ってもごみとして外に出さないようにするとか、海洋プラスチック汚染が進まない努力を、今すぐ始めるということが大事ですね。
海洋プラッチックごみ問題を学んだ風乃衣さん。続いては、磯焼け問題を解決する取り組みを見学に。訪れたのは神奈川県水産技術センター。磯焼けとは海の砂漠化とも言われる、海藻が生えなくなる現象のこと。今、日本各地で問題になっています。
「磯焼けの大きな原因は、海藻を食べる魚が増えたことです。」と、水産技術センター臼井さん。もともと黒潮に乗って来て夏にはいたのですが、温暖化で冬も越冬出来るようになり、海藻の消費量が増えたそう。
更に元々居たムラサキウニと南方系のガンガゼウニは、海藻が足りなくなって岩ごとかじってしまう。魚とウニに食べ尽くされた磯は丸裸。海藻は小魚の隠れ家にもなり、酸性化の原因にもなるCO2を吸収してくれる海にとって欠かせない生き物なので、磯焼けはとても深刻です。
では、磯焼けを解決する方法はあるのでしょうか?案内されたのはウニの水槽。ここにいるのは磯焼けした場所から採取してきたウニなのですが、ウニ自体も問題を抱えていました。
それは、磯焼けの影響で餌が食べられなくて身が入らなくなっていたのです。これでは採っても食べられません。
水産センターでは色々な餌で実験し、キャベツを餌にしてウニを太らせることに成功しました。「いろいろな野菜を試しましたが、一番の好物はキャベツだったんです。」と、臼井さん。しかもキャベツは神奈川県の特産品。傷がついたり、大きさが揃わず捨てられていたものを活用できるということで、一石二鳥の結果となりました。
そのウニを試食させてもらうと、とても甘い!海藻の臭みもなく旨味だけがある味わいです。「グリシンやアラニンというカニやエビと同じ甘味成分が天然物にも勝る状態なんですよ!」と、臼井さん。
水産センターで育てられたウニは「キャベツウニ」として地元のスーパーなどで販売され大好評。美味しく食べて磯焼けを予防するなんて、最高の取り組みですね。
マイクロプラスチックに磯焼け、海の問題を現場でじかに体験してきた風乃衣さん。「今の状態は色々な問題が重なっているので、様々な人に情報を配信して知ってもらい、「わたしもちょっとした事から始めよう始めよう」と思ってもらえるようにする事が大事だと思いました。」と、今回の学びを振り返りました。
海の環境を知ることは、この地球に生きる全ての人間にとって共通の課題です。海を傷つけるのも私達人間。ごみが出ないように工夫したり節電したり、海を守れるのも私達人間なんです。一人一人が取り組めば大きな力になります。
今、地球で起こっていること。未来の海のこと。科学という視点から見えてくるもの。沢山ありました。まずは正しく知ることから始めていきましょう!
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次回のみんなのあおいろは・・・
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