2024年2月23日、お茶の水女子大学で行われた「第4回お茶大 海のジュニアティーチャー養成講座」を取材してきました。この講座は、企業や他の団体を巻き込みながら、実験や観察を行い、サスティナブルな視点を持って積極的に活動できる次世代の海洋教育の担い手を育成していくイベント。
今回のテーマは「ウニの発生実験」。海の中で起こっている生命誕生のイベントを陸上で自分たちの手で再現します。肉眼では何が起こっているのかわからないけれど顕微鏡で観察すると劇的な変化を見ることが出来るのだそう!また、実験や観察だけでなく、私たちと海の関わりや、持続可能な漁業についての講義も行われました。
特徴的なのは実験や観察をレクチャーしてくれる先生が子どもたちということ。この先生となる子どもたちのことを「ジュニアティーチャー」と呼びます。このジュニアティーチャーは過去のジュニアティーチャー講座で学び、認定された子どもたち。この日は12名がジュニアティーチャーとして参加していました。
講座は午後から開催されるのですが、午前中からジュニアティーチャーとなる子どもたちが集まっていました。これはリハーサルや準備をするため。海のキッズサポーターとしても活躍している姉妹、かれんちゃん・まりあちゃんの姿もありました!
まずはリハーサル。ジュニアティーチャーとなる子たちが榎戸先生と一緒に本番の流れを確認していきます。さらに親御さんたちを受講生に見立てて着席してもらい、本番さながらの発表練習や映像出しの練習を行います。
リハーサルを終えると今度は採卵・採精の事前実験。和田先生からの説明を受けて実験のポイントを確認。実験は初心者のジュニアティーチャーに挑戦させてあげ、うまく行かない時は、慣れたジュニアティーチャーがレクチャーしてあげていました。
午後の実験で使用する素材や道具の下準備もジュニアティーチャーが作業。慣れているジュニアティーチャー達が人数分の実験素材を作っていきます。
午後になり本番開始。受講生たちが続々と教室に入って着席していきます。この日は募集対象が小学5年生以上とあって、比較的年齢層が高め。小学生がメインですが高校生の姿もありました。
まずは榎戸先生(左)、和田先生(右)から自己紹介とご挨拶。今日の流れを説明していきます。
それが終わるとすぐにジュニアティーチャーに進行がバトンタッチされ、まずはウニの体のつくりと、実験で使用するバフンウニの紹介が始まりました。クイズ形式にまとめていてとても分かりやすかったです!
次は実験する採卵採精のやりかた。自分たちで作ってきたスライドを使いながらウニから卵や精子を取り出す方法を丁寧に教えてくれます。
ここで実験をサポートしてくれるジュニアティーチャー12人が自己紹介。緊張しながら一人一人マイクを取ります。
その後、生きているウニと採卵採精セットを配布して、ウニの観察をしてから、卵や精子を取り出す実験を行います。
ウニの産卵は想像していたよりもかなり美しくダイナミック。口の周りを切りピンセットで口を取り出して塩化カリウムを入れチューブに乗せると…トゲが泳ぐように揺らぎ産卵していきます!みんなもこの様子に夢中。(写真左:たくさんの卵が黄色い筋となって産み落とされています!)
午前中に事前実験を行なっていたので、ジュニアティーチャーたちの手際もスムーズ。自分より年上の受講生でも臆することなくしっかりティーチャーをしていました。
続いてはメインとなる受精実験。海のキッズサポーターかれんちゃん・まりあちゃん姉妹が登壇し、卵と精子を混ぜて発生を開始させる方法や観察のコツを説明。その間に実験で使うチューブ等もテキパキと配布していきます。
観察は顕微鏡を使用するため、顕微鏡の正しい使い方を、里先生がレクチャーしてくれました。
さぁいよいよ受精実験開始!ジュニアティーチャーの子どもたちが受講生のテーブルを周り、実験の様子を確認しながらアドバイスをしていきます!
小さなジュニアティーチャーが少し手こずっていると、慣れたベテランジュニアティーチャーがすかさずサポート。素晴らしい連携です。
未受精卵はただの丸ですが、受精すると…みるみる受精膜が形成され二重丸のようになりました!他の精子が受精卵に進入しないための膜だそうです。顕微鏡で見るとこれがなんとも神秘的!全員がこの受精卵を顕微鏡で確認することが出来ました。
次は卵割の観察ですが2細胞期には受精から約1時間かかるため、観察はここで一旦休憩。この時間を利用して、海と食についての講義が行われました。
まずは榎戸先生による「わたしたちと海のかかわり」。お寿司のネタから始まり、日本の海の特徴や、自分たちとの海の関わり、漁獲量の減少問題について教えてくれました。
次に海のエコラベル認証で知られるMSCの高橋さんによる「いつまでも魚を食べ続けるためにできること」。MSC海のエコラベルのこと、漁業問題、持続可能な漁業について学びました。
最後に食品会社なとりの山崎さんによる「なとりって何を作っている会社?」。なとりで扱っている水産加工物のことや、人気商品チーズかまぼこの商品開発や作り方、MSC漁業認証での注意事項など、貴重な企業秘密の部分まで特別に教えてくれました。
講義が終わり、気になる顕微鏡を覗くと…、いくつかの顕微鏡で受精卵が2つに割れかけていました!スマホで卵割を撮り始める子がいる中、「えー居ない…」と、焦り出す子も。しかしジュニアティーチャーがすぐサポート。一緒に探してくれるので安心です。「居た!」「見つけた!」と喜びの声があちこちから聞こえ、盛り上がりました。
また、事前実験で受精させ、卵割がもっと進んだ状態のウニや、プリズム幼生・稚ウニの顕微鏡も用意されていたので、発生過程の資料と見比べながらこちらも観察。幼生になって動き出した小さな赤ちゃんウニはとても可愛かったです。
受講生の子どもたちがジュニアティーチャーに質問したり、ディスカッションをしたり。テーブル各所で盛り上がり、まだまだ時間が足りない様子でしたがここで終了時間。
最後にジュニアティーチャー認定書の贈呈式が行われ、今日頑張った受講生全員がお茶大海のジュニアティーチャーとして認定されました!今後は教える側になってイベント参加が出来るそう。早速、翌日開催される第5回お茶大 海のジュニアティーチャー養成講座でティーチャーデビューする子もいました。ドキドキワクワクが続きますね。
受精させたウニは持ち帰り可能ということで、飼育容器に移し替え、海水やエサをもらって保冷ケースに入れて持ち帰ります。この場で終わりではなく、引き続き飼育・観察が出来ることも嬉しいですね。その他、お土産としてなとりさんのチーズ鱈やファイルケースなどのグッズももらえて皆んな大喜び。
受講生も、ジュニアティーチャーも、参加者全員が学び合い、伸ばし合える素敵なイベントでした!また、ウニの受精実験だけでなく、身近な海との関わりや取り巻く環境問題などを併せて学ぶことで、「海」に対する意識の深掘りが笑顔で行えていました。
小学4年生男子
きらら舎(カフェでのワークショップ)でウニと出会い興味を持ちました。どんどんウニが好きになったので今回ここに参加しました。卵割が見れた時は感動しました。実験楽しかったです。明日はジュニアティーチャーをやってみたいです。
小学6年生女子
お母さんが海と日本プロジェクトのホームページでこのイベントを見つけてくれ、生き物に興味が有ったので参加しました。和田先生が行っている「全国一斉ウニの発生体験」に参加したことはありましたが、ジュニアティーチャーは初めてです。みんなと一緒に実験が出来てとても楽しかったです。今日認定がもらえたので、明日はティーチャー側で参加します。今日教えてくれた人たちみたいに分かりやすく教えたいと思います!
高校生二人組
学校でこれと同じウニの実験をして興味を持ち、もっと知りたくて参加しました。ジュニアティーチャーの先生はいろんなことをすぐに教えてくれて凄いなと思ったし、説明も分かりやすくて良かったです。これからも生物のことをもっと深く学んでいきたいです。
小学生の子達が教えてくれるのは、直感的な意見だったり、マニュアル通りじゃ無い感じがすごく好きだな、と感じました。意見交換もしやすく、楽しく取り組めました。
中学生男子
この前までニュージーランドに留学していたほど海洋生物が好きです。今回初めてジュニアティーチャーをしました。受講してからジュニアティーチャーまでの時間が空いてしまったので、上手に出来るか不安だったのですが、やり始めたらすぐ思い出せました。人に教えるのは難しいし疲れたけど楽しかったです。海の生き物の面白さを人に伝えたいので、また参加したいと思います。
中学生男子
ジュニアティーチャーとして参加するのは4回目なので最初よりはだいぶ慣れてきましたが、人に教えるのはやはり難しいです。面白いけれど大変の方が大きいです。でもまた参加はしていきたいと思っています。
中学生女子
自分では理解していることでも、人に伝えるとなると難しくて大変でした。簡単に言いたいのに言えなくて…。そういうことも勉強していきたいです。でもありがとうと言われるとすごく嬉しいので、やって良かったと思いました。
小学生女子
今回はじめてジュニアティーチャーをしました。緊張したけど楽しかったです。でももっと上手に教えられるようになりたいです。また参加したいです。
今回の海のジュニアティーチャー養成講座を開催したのは、お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーション研究所(以下 ISE)の榎戸先生(中)と湾岸生物教育研究所の和田先生(左)。そしてサポートとしてISEの里先生(右)もいらっしゃいました。さてお写真を撮らせていただいたところ先生方のピースが逆さま…?実はこのポーズ、ウニのプルテウス幼生を真似したポーズ。かわいい!!!
では、参加を考えている方へのメッセージをお願いします!
ISE 榎戸先生
イベントはただ楽しいだけでなく、社会課題や環境問題も学んで考え、発信までして欲しい。という想いがありました。その中で海と日本プロジェクトとの目標「海洋教育の実践と担い手の養成」を考えた際、子どもが子どもを教えるというイベントが面白いのでないかとなり、ジュニアティーチャーという形に行きつきました。第1回・2回は海藻をテーマに磯焼けなどレクチャー。第3回からは、和田先生が行っていた「全国一斉ウニの発生体験」事業とコラボし、今のカタチになりました。
海好きのお子様だけでなく、ちょっとでも海に関心があれば参加してみてください。ここで初めて海の面白さを知ってもらえれば嬉しいです。学校では学べない体験がきっと出来ますよ。
湾岸生物教育研究所 和田先生
学校教材としてウニの受精実験教材を届ける活動を行う中で、もっと子どもたちとの繋がりができればと、一般家庭にも教材を届ける「全国一斉ウニの発生体験」をスタート。オンライン交流を行ったところ、子どもたち同士で情報共有をはじめたので、対面のイベントにしたらどうだろうと考え、榎戸先生が行っていたジュニアティーチャーとコラボをしたのがこのイベントです。とても良い化学反応になったと感じています!
参加すると、ジュニアティーチャーがカッコ良く眩しく見えると思いますが、ここで1回学んだ人はジュニアティーチャーになる資格をもらえます!是非参加してみてください。多くの子どもたちがジュニアティーチャーとして活躍してくれることを期待しています!
ISE 里先生
ウニの実験をやることにより “明日からの世界の見え方が変わる” そこが大事だと思っています。家に帰ったら顕微鏡がないからここでおしまいという子もいるかもしれませんが、実験をしたり、話を聞いたことで、海により一層関心を持つきっかけになってくれたらいいなと思っています。また、ジュニアティーチャーに関しては、是非体験して“情報発信するとはどういうことか”を知って欲しいです。自分の学びを伝えるというのは、多くの場面で必要です。今回ここが上手くいかなかったとか、ここは良かったとか、反省や振り返りをして、次に活かしていってください。そして、このウニポーズを是非広めてくださいw
海のジュニアティーチャー養成講座取材をした翌日、実は私の息子(小1)も受講生として受講しました。個人として参加したので取材は無しで、付き添いの親として見学していただけなのですが、取材した日に受講生として頑張っていた数人の子達が、ジュニアティーチャーとして参加しているのを発見。勝手にハラハラドキドキしながら目で追ってしまいました。しかし、不思議なことにみんな昨日と異なりしっかり先生顔。不安なこと、わからないことは先輩ジュニアティーチャーにさっとアドバイスを求めながらテキパキ。私の息子が不安そうな時にはパッと気づきサポートしてくれていました。その頼もしい姿に子どもの成長ってすごい!…と驚愕。学んだことをアウトプットすることにより、更に強い学びになっているのだな…とも感じました。息子もそんな先輩に憧れたようで「僕もいつかジュニアティーチャーにチャレンジしたい!」と意欲的。親目線で見ても素敵なイベントだと改めて感じました。
海や生物に少しでも興味がある方は是非参加してみてくださいね。
海と日本プロジェクトでは美しい海を守るべくさまざまな活動を行なっていきます。皆様も共有していってください。活動情報はSNSでお知らせしています!
◆イベントレポート: https://uminohi.jp/eventreport/2023_ocha_juniorteacher0223/
◆イベント公式ページ: https://sites.google.com/view/ocha-ocean/
◆海プロ東京Twitter: https://twitter.com/umiprotokyo