人々の生活の中で生まれ、親から子、子から孫へ受け継がれてきた民話。四方を海に囲まれた日本には、海を題材にした民話も多く、海と人とが共存していくためのヒントが隠されています。しかし、市町村の合併による資料の散逸や、語り部の減少により消滅の危機!海との関わりと地域の歴史が詰まった民話を未来へ語り継ぐプロジェクトが、日本各地で行われています。
これまで様々な社会問題の解決に取り組んできた日本財団。その中に、未来を担う子供たちをターゲットとした「海と日本プロジェクト」があり、環境汚染や海離れなどの海洋問題を自らの問題として捉えてもらうため、全国で様々な取り組みを実施。その取り組みの一つが「海ノ民話のまちプロジェクト」なんです。
プロジェクトの柱として行われているのが民話のアニメ化。各地に伝わる民話を入念に聞き取り、子供にも伝わりやすい表現にアレンジして制作が進められてきました。
「民話には海の学びや、まちの歴史や文化が込められています。想像力が豊かな子供たちに、自由な発想で表現ができるアニメを使って発信し、海や自分のまちに興味を持ってもらいたい。そして1人でも多くの人に海の民話に含まれる知恵や教訓を発信していくことが我々の使命だと感じています。」と、日本昔ばなし協会・沼田心之介代表。
海ノ民話のまちプロジェクトがこれまで制作してきたアニメは日本各地27作品。番組では愛媛県伊方町に伝わる「速吸瀬戸の守り神」を紹介しました。
漁師の船を沈める悪い神の姿を、良い神様が黄金の岩に変えるのですが、海賊が黄金を盗んでしまい、岩から輝く光が失われます。すると岩が見えにくくなり船がぶつかる事故が多発。神様はつがいのタコに剣と玉を持たせて海の安全を守らせることにしました。しかし今度は離れ離れになったタコ達が悲しんでしまいます。そこで剣と玉を神社にお祀りして海を守ることにしました、というお話しです。
この民話には、海の安全に対する教訓が込められています。実際に民話の場所を訪れてみました。目の前に広がるのは四国と九州を隔てる豊予海峡。速吸瀬戸は潮流が激しいので絶好の漁場だそう。右側が太平洋側。左側が瀬戸内海側。その間に見えるポールが黄金碆です。ちょうど太平洋側が満潮となっていて、瀬戸内海側に向かって滝のように海水が流れ込んでいました。
「黄金碆」を示すポールの下には民話で出てきたような岩礁があり、ポールがなければ気付かずに船が乗り上げてしまいます。夜になると佐田岬灯台から明かりが灯され、遠くからでも見つけることができるようになっています。海ノ民話は今もしっかり受け継がれているのですね。
「ここは一番海難事故の多いとこで、100tぐらいの船がひっくり返ったりとかも見てきたし、一番危ないから昔の伊達藩が野坂神社を作ったいう噂も聞いとるよ」と地元の方。
その野坂神社が、民話の中で海を鎮めるための玉をお祀りしたとされる神社です。「野坂神社は古い言われがあります。佐田岬沖の海中に光るものが見つかり、地元の人が潜って取りに行ったところ、光るものを抱えたタコがいたそう。これは不思議なもんだということで御神体に祀った伝えられています。」と、郷土史を研究されている学芸員の髙嶋さんが教えてくださいました。民話のストーリーと同じ!それが地域にちゃんと伝えられているんですね。
伊方町で受け継がれてきた速吸瀬戸の民話ですが、最近では民話を知っている子供の数がとても少なくなってきました。そこで、伊方町ではアニメが収録されたDVDを3000枚配布。
小学生に向けた上映会や、ワークショップを行ってきました。「知らない言葉など知れて良かったです」と参加した子どもたち。
民話を伝えるために作られていたのはアニメだけではありません。こちらは地元の海産物を活用したお土産で、豊予海峡で獲れたタチウオ使った燻製。生産者と海ノ民話のまちプロジェクトがコラボレーションした商品です。
愛媛県では「速吸瀬戸の守り神」の他に「おなべ岩」「おたるがした」という民話もアニメ化され、民話と特産品のコラボは、愛媛県全体での動きになっています。松山市に設置されていたのは、愛媛の海産物を使った缶詰の自動販売機。販売機には民話が流れています。設置場所は多くの観光客が訪れる道後温泉。県外の観光客も多いので、より多くの人に海の民話が伝わっていきますね。
地域の歴史と海の教訓を子供たちに伝える海ノ民話のまちプロジェクト。その魅力を知ってもらうために、アニメのオンライン上映会を開催。日本全国の小学生が親子で参加してくれました。
上映されたのは、神奈川県藤沢市に伝わる「五頭龍と弁天様」。愛媛県伊方町に伝わる「速吸瀬戸の守り神」。宮城県七ヶ浜町に伝わる「大根明神のアワビまつり」の3本。
「神様を大切にする気持ちが自分たちを守るんだなと思いました。」「アニメが分かりやすかったので、いろんなお話が知りたくなりました。」「灯台の光が印象的で、行ってみたくなりました。」と子ども達。
「五頭龍と弁天様」は、水害を起こし人々を苦しめる五つの頭を持つ五頭龍が弁天様に一目ぼれし、結婚してもらうためには悪さをやめたというお話。「五頭龍と弁天様」の舞台となった江ノ島がデートスポットになっているのも、五頭龍と弁天様が結ばれた“縁結び”が元になっているそう。そしてこの弁天様を祀っているのが江ノ島神社なんです。上映会に参加した葛西彩音さんがお母さんと一緒に江ノ島にやってきました。
今回は特別に神社の方に弁天様の伝説を紹介してもらいます。案内されたのは、円天様を祀る奉安殿。
「こちらが弁天様のお姿。右の弁財天様は手を8本お持ちです。八臂弁財天といいまして、今から840年前、源頼朝がお祈りをするために作らせたと言われているんです。左の白いお姿をされ、琵琶を持っていらっしゃるのが妙音弁財天です。」と神社の方。
江ノ島縁起という神社のいわれをまとめた巻物もありました。アニメで見たのと同じストーリーが何百年も前から伝えられているんですね。
「自分たちの知らない時代、祖先がどういうふうに過ごしてきたのかなど、少し触れられた気がします。」「弁財天様に手が八つもあるのに驚きました。絵巻の続きも気になります。」と葛西親子。訪れたことがある場所も民話を知ってからだと感じ方も変わるし、どんどん興味が湧いてきますね。
「五頭龍が弁天様」の民話がこれほど大切にされてきたのは、やはり江の島が海に囲まれた場所だったからなのでしょうか。「海というのは我々日本人が生きている中でも特別な感情があるんですよね。水に育まれながら生きてきてるのが、江ノ島のあり方です。」と、神社の方。恩恵を受けていることを忘れてはいけないですね。
弁天様も龍も、水を司る神様。江ノ島には弁天様だけでなく、龍を祀るお宮や住んでいたとされる洞窟が残され、多くの人が訪れる観光地になっています。
また、弁天様と五竜が結ばれたことから結びのパワースポットとされ、錠前に名前を書くおまじないが大人気。民話として語り継ぐだけじゃなくて、こうして観光地として親しまれることでも受け継がれていくんですね。
「話を聞いたりアニメを見てからここに来たのでいつもと違う感じで楽しめました。」と彩音さん。「事前に調べてから来ると新しい発見に繋がりますね。知った気にならないで現地に行くと、また疑問が生まれてまた調べてみよう!となります。その地域や伝承伝説など親子で楽しみながら勉強して、いろいろな旅行をしてみたいなという気持ちが出てきました。」とお母さん。
海の恵みや海の危険、民話はご先祖様が学んだり体験したことを教えてくれる海の教科書。大切に守られてきた地域の民話を未来の子供たちへつないでいきましょう。
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本年度のみんなのあおいろはこれで最後となります
2022年度も放送予定ですのでお楽しみに!
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