洋服を着た状態で水に落ちてしまう時は、心の準備が出来てません。パニックを起こし、足が付くところでさえ気づかずに溺れてしまうことがあります。子供同士で水辺へ行かない、大人と水辺へ行く時でもライフジャケットを着用する、ということが大切ですが、予期せぬ場面の万が一に備えて。服のまま水に入ったらどうなのかを知っておきましょう。今回は東京練馬区にある大泉スワロー体育クラブの着衣水泳授業を取材させてもらいました。
授業を行っていたのは3歳から小学校高学年生までの幅広い年齢の子供たち。スワロー体育クラブでは、初心者から上級者まで、レベルに合わせた少人数制のクラスに分かれて授業を行っています。今日は1年に1回行われる着衣水泳。準備体操が終わると、先生の指示に従って、着衣水泳用に準備して来た洗濯済みの靴、長袖・長ズボンに着替えます。
先生は二人体制。一人の先生がプールの中で構えてくれている中、もう一人の先生が子供たちをプールにボチャーーーン!と落としていきます。
1)服を着て泳ぐことの難しさを確認しましょう!
2)突然水に落ちた時のパニックを経験しましょう!
3)上を向いて背浮きしましょう!
驚いたのは、小さな子でも、何度か着衣水泳を経験している子はとても冷静なこと。先生に軽く手伝ってもらうとクルリンと体勢を上向きにしてジーーーーーーーっとぷかぷか。とても上手に浮いていました。
ボッチャーーーン!次に落とされたのは初めての子。足が付くのにバシャバシャして浮くどころでは無くアップアップ。「足つくだろー!慌てるな!慌てるな!まず足が付くか、付かないか確かめろ!」と先生に言われると「あ・・・」と立って照れ笑い。
しかし3回目には上を向いて浮けるように成長!パニックになると慌てて顔を横に向けてしまうことが多いそう。目は水から出てても、口は顔の下の方についてるので、ブクブクブクとなって水を飲んでしまいます。まずは口を一番高いところにするために上を向くことが大切!このポーズを覚えましょう!
こちらは中級クラス。上向きで浮く体験の後に、空のペットボトルでどれだけ楽に浮けるかを体験していました。
体勢を保っていられず足が沈んでしまう時も・・・
ペットボトルを抱いたら浮きました!「絶対手を離しちゃダメ!しがみつく!足は開いてー!力を抜いてー!」と先生。この後、ペットボトルに水をフルで入れたら浮くか?(←沈んでしまう!)半分の水なら浮くか?(←なんとか浮くけど空のがいい!)などの実験も行っていました。
先程の小さな子たちのグループでもペットボトル体験。すでに慣れて来た子たちはペットボトルを抱えながら上手に泳いでいます!
こちらのクラスでは、ペットボトルを抱えて1分間の背浮き体験中。先生が軽く水飛沫をかけると、つい顔を拭きたくなりますが「顔ふかない!手を離さずしがみついてるよー!」と先生。時間が経つと、ひっくり返りそうな子もいましたが「手を離しちゃダメ!足開いてー!」先生やお友達に励まされながら、ほとんどの子達が1分耐えていました!
次に体験していたのは、靴を脱いでの背浮き。「靴を履いていると泳ぎにくいから脱ぎたくなるけれど脱いじゃダメ!」と先生。実際に背浮きしてみると、確かに足が下がってしまいました。そう、靴は水に浮くので浮力が上がるのです。また、岩や珊瑚などから足を守ってくれたり、体温を逃さないでくれる効果もあります。
4)服を脱いだり、靴を脱がない方が良いことを知る!
5)ペットボトルが浮くことを知りしがみつく!
上級クラスでは4つの泳ぎを体験。まずはクロール!このクラスならば余裕のはずですが…みんな顔が上がってしまい辛そうです。その後、背泳ぎや平泳ぎも体験していましたが、いずれも力技のような感じ。短い距離ならばクロールでなんとかなりそうですが、距離があると厳しそうです。
最後に挑戦したのが上を向いた平泳ぎ「エレメンタリーバックストローク」。これは着衣水泳で一番効果的な泳ぎ方だそう。確かに皆んな安定して進んでます。
やはりエレメンタリーバックスローブ(背浮き平泳ぎ)が一番泳ぎやすかったというみんな。先生から「膝が開くと足が水出ます。そうすると顔が沈むので顔に水がかかる。なのであまり膝が開かないようにしてみましょう」というアドバイスをもらっていました。
助けを待つというのが基本です。
1)慌てず顔を出して呼吸を確保
2)落ち着いて上向きに浮かぶ
3)呼吸確保後に助けを呼ぶ
残念ながら助けがなければ自分で落ちたところに戻りましょう。
落ちた人はパニックになってると思います
1)励ましの言葉をかけて安心させる
2)落ち着いたら「上を向いて浮かんで呼吸を確保して」と言う声がけ
3)「助けを呼んでくるから待ってろよ!」と安心させる
4)自分ができる行動を取る。
浮かぶものやロープがあれば投げてあげる。助けを呼びに行く。水泳習ってるから・・・と「助けにいくぞー」という行動は絶対にやめましょう。
それぞれの場所で決められたルールを必ず守りましょう!水が綺麗だからと遊泳禁止の場所で泳いでしまい潮に流されるという話もよく聞きます。それから必ず保護者ないし大人の方と遊びに行くということも大事です。
こちらのクラブでは着衣水泳を平成3年から30年以上行っているそうです。バタフライが泳げても、自分の命が守れないというのでは、水泳を習ってる意味が半減してしまうということから、サバイバル水泳をやってみようとなり、着衣水泳の取り組みをはじめたとのこと。昨年は新型コロナの影響で行えなかったそうですが、毎年1回は実施するのが恒例だそうです。
本日参加していた生徒さんから着衣水泳の感想をもらいました!
「服を着ていると体がとても重いんです。 とにかく「浮く」ということが大切だと改めて思いました。」と、上級者クラス5年生女の子。着衣水泳は5、6回経験しているそうです。
「服を着て泳ぐことは何度やっても辛いけれど、習ったことをちゃんと出来るようにしつつ、こういう状況にならないように気をつけていきたいです。」と、感想をくれたのは上級者クラス6年生の女の子。彼女も着衣水泳は5回目だそう。みんな毎年体験してるんですね!
先生からもメッセージをいただきました!
立松先生
洋服を着た状態で水に落ちてしまう時は、心の準備が出来ていません。着衣水泳を一度経験しておくことで、パニックになりにくくなり、事故を防ぐ確率が上がるんじゃないかなと思います。しかし、経験したから必ず助かるということではありません!海や川、プールも含め、水があるところでは大人から絶対に離れないでください。自分1人で助かるということはなかなかありません。大人からから離れて1人で遊びに行かないということを必ず約束してほしいと思います。
石井先生
着衣水泳は、万が一の際にパニックからいち早く脱することを一番の目的としています。体験をしないとどういう状態になるか分からないので、例えば足が付くのに慌てて溺れてしまうなんていうこともあります。着衣水泳を長年やっていると、なんで洋服着なきゃいけないのか?面倒くさいよ!という声もあります。しかし体験をすることで、パニックからいち早く抜け出せるようになるので、1年に1回はやった方がいい!絶対に必要なことだと子供たちに伝えています。
今回この取材をして「経験の大切さ」をとても感じました。未就学児のような小さい子でも、経験のある子は、足がつかないプールでもまず上を向うと意識をして冷静だったからです。また、大泉スワロー体育クラブでは「着衣水泳結果表」がもらえます。一度経験して終わり!ではなく、また来年ここまでできるようになりたい!という目標が持てるのも良い取り組みだと思いました。「着衣水泳」がもっと身近になるよう、多くの学校プールや区民プール、スイミングスクールで、着衣水泳授業が増えれば嬉しいですね。
取材協力
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